有資格者が教える、賃貸借契約の流れとは

公開:2021/02/17
更新:2023/06/12
有資格者が教える、賃貸借契約の流れとは
内見が終わるといよいよ契約です。お部屋探しが初めての方は必要な物や流れがイメージできず、少し不安に感じることでしょう。本記事では、契約から契約後の流れやキャンセル可能なタイミングなど、初心者向けに分かりやすく解説していきます。

賃貸借契約に必要なもの

賃貸契約とは、民法に規定されている「賃貸借契約」のことです。賃貸借契約では、貸す側を「賃貸人」といい、借りる側を「賃借人」といいます。この契約には、どのようなものが必要か、まずは見ていきましょう。

マンションやアパートを借りる際には、事前に必要なものを準備しておく必要があります。契約当日になって提出物が揃っていない状態にならないよう、事前に確認しておきましょう。

印鑑

印鑑の種類は、大きく分けて以下のものがあります。

  • 実印
  • 銀行印
  • 認印

実印とは市役所や町役場などで印鑑登録として、法的に認められたもの。1人につき1本と決められています。用途は、契約書、遺産相続、会社設立、公文書の作成など。賃貸借契約にも実印を使用します。

銀行印は、銀行口座を開設するときや銀行窓口で現金を引き出すとき、時手形・小切手の発行などです。
認印は、荷物の受け取りや書類確認、回覧などです。

身分証明書

賃貸借契約では、本人確認ため身分証明書を求められます。以下のものが身分証明書として認められます。

  • 運転免許証
  • 健康保険証
  • 年金手帳
  • マイナンバーカード
  • 住基カード
  • パスポート

顔写真付きの身分証が必要となるケースが多いです。免許やパスポートを持っていない場合は、保険証と住基カードなど複数求められるケースがあります。 本人確認以外にも保険証で在籍確認を行う会社もあります。
学生の方は、在職証明書もしくは学生証のコピーが必要となる場合があります。 何も持っていない方は、市役所や町役場で住民票の写しを取得しましょう。

住民票の写し

名前、生年月日、性別、世帯主、現住所、前住所、本籍地が記載されています。
賃貸借契約では、身分証明書に記載がない部分や身分証明書との相違がないか、入居希望者のより正確な身元確認のために提出を求められます。物件に入居する全員の住民票が必要です。独身とファミリー世帯では、提出内容が異なります。

  • 独身で入居する場合は、自分の情報(住所、氏名)の記載があるもの「一部事項証明」(抄本)を取得します。
  • 家族で入居する場合は、入居者全員の住所、氏名、世帯構成が分かる「全部事項証明」(謄本)を取得します。
  • 同棲や知人同士のルームシェアを行う場合は、それぞれが住民票の写し「一部事項証明」(抄本)を取得する必要があります。

不動産会社によっては、本籍の情報も必要となる場合があります。
住民票の写しの取得方法は、市役所や町役場、郵送でも申請を依頼することができます。住民票の交付は、マイナンバー記載のものとマイナンバーなしのものがあり、マイナンバーなしのものを交付します。 取得できるのは、本人または同じ世帯の方に限られます。

連帯保証人

連帯保証人は、家賃を支払わない場合に本人に代わって支払いをする人のことです。借主と同じ責任を負います。貸主からの請求に拒むことができず、支払う義務が生じます。

これに対し、保証人は、家賃の支払い請求を受けても、まずは借主に支払うよう求めることができます(催告の抗弁権)。さらに、借主に弁済の資力があり、執行が容易であることを証明することができます。(検索の抗弁権)。

連帯保証人は、催告の抗弁権と検索の抗弁権がありません。
現在ではほとんどの物件で、連帯保証人の代わりに保証会社への加入が求められます。

賃貸借契約の流れ

ここからは、実際に物件の申し込みから審査、契約書作成、重要事項説明、入居時期、契約のキャンセルまで具体的に解説していきます。

物件申し込み

物件の内見が終わり、希望する条件のお部屋が見つかった場合は、不動産会社に入居申し込みを行います。申し込みの前に予算や物件について、もう一度確認しておきましょう。

審査

賃貸借契約では、物件申し込みのみでは契約できません。申し込み後は入居審査が行われます。貸主と借主の同意があってはじめて契約成立です。
入居審査を行う理由として、家賃を支払える収入があるのか?近隣とのトラブルを起こさないか?などを見極めるためです。一般的には、3日~10日ほどかかると言われています。

入居審査で必要な書類

  • 身分証明書
  • 収入証明書

収入証明書は、会社員であれば源泉徴収票、自営業であれば、公的な収入証明書(確定申告、課税証明書など)、就職や転職の場合で源泉徴収票が出せない場合は見込み年収記載の採用通知が必要になります。

入居審査は、統一された明確な基準があるものではありません。しかし、収入の安定性が重視されることが多いです。入居申し込み書には、一般的に年収、勤続年数、家族構成の記載が求められます。

入居審査に関するよくある疑問については以下の記事で分かりやすく説明しています。

関連記事:有資格者が賃貸の入居審査の疑問に答えます

契約書の作成

入居審査を通過すると、賃貸借契約書を不動産屋さんは作成します。契約書は一般的に国土交通省が提供する「賃貸住宅標準契約書(改訂版)」を基に作成されます。内容は不動産会社・物件により異なりますが、所在地・建物の構造・間取り・部屋番号の物件情報から、賃料・共益費・契約期間・更新などの契約に関する事項が記載されます。

賃貸借契約書については以下の記事で重要なポイントを説明しています。

関連記事:法律の専門家が教える、賃貸借契約書のここを見るべし3つのポイント

重要事項説明

賃貸借契約を締結する前に、入居予定者に対して重要事項説明を行わなければなりません。これは宅地建物取引業法35条に規定されています。
重要事項説明では、これから借りる物件がどのようなものかを説明します。「対象物件に関する事項」と「取引条件に関する事項」に大きくわけられます。重要事項説明では、宅地建物取引士が書面を交付した上で、口頭で説明しなければなりません。このときに、宅地建物取引士証を提示する決まりがあります。提示してもらえなかった場合は、説明する宅建士に提示を求めましょう。

重要事項説明の主な内容

  • 契約期間・契約の更新に関する事項
  • 敷金その他契約終了時に精算される金銭について
  • 飲用水・電気・ガスの供給施設および排水施設の整備状況
  • 台所・浴室・トイレやその他の当該建物における設備状況
  • 登記された権利の種類・内容・登記名義人
  • 石綿(アスベスト)の使用有無
  • 契約解除や損害賠償の予定や違約金の額
  • 代金・交換差金・借賃以外に授受される金銭の額・目的
  • 契約不適合責任の履行に関する措置

など、多岐にわたります。契約内容(賃貸のみ、土地のみ、売買・交換)によって、説明事項が異なります。
また、2017年10月1日からITを活用した重要事項説明(IT重説)が開始されました。IT重説では、パソコンやテレビなどの端末を利用して、対面と同様に説明や質疑応答が行える双方向性のある環境が必要となります。実施する前には、紙の書類を作成し、送付しておかなければなりません。

OHEYAGOではIT重説を推奨しております。

以下の記事で重要事項説明書について詳しく説明しています。

関連記事:重要事項説明書に捺印をする前に把握しておきべきポイント

賃貸住宅紛争防止条例に基づく説明書(東京都では必須)

修繕や原状回復にまつわるトラブルを未然に防ぐために東京都は「賃貸住宅紛争防止条例」を制定しました。これにより賃貸物件の壁紙や床などにおける摩耗や汚損について、修繕や原状回復の責任が借主にあるのか、貸主にあるのかが細かく定義されました。

これらを書面にて説明したものが「賃貸住宅紛争防止条例に基づく説明書」です。

サイン・押印

上記のプロセスを経て、賃貸借契約書に問題がなければ、賃借人と賃貸人が契約書に記名し、捺印する必要があります。契約内容について同意したことを示します。捺印する際の印鑑は、法律上の定めがないため、三文判や認印でも可能とされています。

しかし、トラブル防止のため、なるべく市区町村の役所に登録した実印を使用することが望ましいです。これによって契約が成立します。

初期費用の入金

契約が成立すると、賃貸借契約では様々な初期費用がかかってきます。

  • 敷金
  • 礼金
  • 仲介手数料
  • 前家賃
  • 火災保険料
  • 保証料
  • 鍵の交換費用

敷金

借主の債務を担保するため、入居時に支払う費用、修繕費用や家賃滞納、退去時の原状回復費用などにあてられます。家賃の1カ月分が多いです。退去時に返還されます。

礼金

入居のお礼として貸主に支払う費用。敷金と異なり、退去時に返還されません。

仲介手数料

物件を仲介してくれた不動産屋さんに対し払う報酬で、借主と家主から不動産屋さんにそれぞれ支払います。宅地建物取引業法に規定があり、家賃の1カ月分+消費税が上限となっています。中には、仲介手数料を無料にしている不動産会社があります。

OHEYAGOでは仲介手数料無料の物件を数多く掲載しています。

前家賃

契約時に翌月の家賃を貸主に支払う費用です。例えば、1月中旬に契約すると、1月残りの日数の家賃と、翌月の2月分の家賃を支払います。民間の賃貸物件では、ほとんどが前家賃となっています。不動産会社によっては、翌々月まで支払う場合もあります。

これに対して後家賃とは、毎月当月分の家賃を月末までに支払う方式です。例えば1月20日に契約すると、残りの1月31日までの日割り家賃が請求されますが、翌月分の家賃は請求されません。

火災保険料

賃貸借契約の場合、火災保険の加入をすすめられます。これは、自分の部屋で火災を発生させてしまった場合に家財の補償と部屋の原状回復を補償するものです。近隣にも被害が生じた場合は「重大な過失」がなければ隣家への賠償はしなくて良いことになります。

火災保険の加入は義務ではなく、任意となっています。

保証料

保証会社を利用した際にかかる費用です。連帯保証人を立てることが難しい場合に、保証人の代わりに保証会社を利用します。保証会社は大家さんに代わり、家賃滞納の督促や立退き業務を担っています。

鍵の交換費用

入居時に新しい鍵に交換する場合にかかる費用です。

賃貸借契約をキャンセルできるタイミング

申し込み後に何らかの理由でキャンセルすることがあります。どの段階までキャンセルができるのでしょうか?

審査前はキャンセル可能

原則、契約書に署名・捺印をしていない段階であれば、キャンセルは可能とされています。キャンセル料を支払うこともありません。

審査後のキャンセル可否はケースバイケース

貸主と借主の口頭で合意されている場合には、契約成立とみなされるケースもあります。これを「諾成契約」といいます。
実務上では重要事項説明を行った後、借主が賃貸借契約書に署名・捺印した時点で契約成立とすることが多いですが、不動産会社によっては、口頭で承諾した時点で契約成立とみなす場合もありますので注意しましょう。

契約後はキャンセルできない

申し込み後、賃貸契約書にサインした後では、キャンセルすることができません。つまり、契約成立後のキャンセルはできず、解約扱いとなります。賃貸借契約書に「違約金」や「解約手数料」などの名目で記載された金額を支払うことになります。

そうならないためにも、賃貸借契約書の中で定められている期限までに解約の意思を伝えておく必要があります。一般的に解約の申し出は、退去の1カ月前とされています。

注意しておきたいのは、賃貸借契約で支払った「全額」が返ってくるわけではないということです。すでに礼金や仲介手数料、前家賃や日割り家賃などは、そのまま返金されない場合がほんとです。部屋を使用していないので、敷金は返還される可能性が高いです。

キャンセルをする場合は、すぐに連絡しましょう。時間が経つにつれ、不動産会社や大家さんに多大なる迷惑がかかることになります。トラブルを避けるためにも、契約成立前に十分検討してから物件を決めましょう。

賃貸借契約後の入居時期

通常、家賃発生日が契約開始日になるので、その日から入居が可能となります。物件によっては、入居日や申し込み日が家賃発生日になることがあります。
最近では「即入居可」の物件があります。これは、入居の申し込みから各種手続きの完了後に賃貸借契約が成立さえすれば、即入居できるというものです。実際には、電気・水道・ガスなどのライフラインに関する契約や開通の手続きが必要です。一般的に即入居の場合でも、申込から審査、契約を経て、入居まで2週間ほど掛かります。逆に申込から入居まで2〜3週間ほどで賃料が発生するので、1ヶ月以上先の入居を検討している場合は、不動産屋さんに確認しましょう。

お部屋の鍵は契約開始日に受け取ることできます。不動産会社に鍵を受け取りに行くのか、現地での鍵の受け渡しが可能かなどを事前に確認しておきましょう。

賃貸借契約の流れのまとめ

物件の申し込みから賃貸借契約の成立、キャンセル可能なタイミングについてご理解いただけたと思います。
特に賃貸借契約書や重要事項説明書には、細かい事項がたくさん記載されています。最終的に署名捺印するまでに、じっくり検討しながら契約の判断を行いましょう。1人で部屋探しをして契約までおこなうのが不安な方は、ご家族や友人に同席してもらうのも良いでしょう。

無用なトラブルにならないためにも、事前に知識を持って進めるようにしましょう。

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この記事を書いた人
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OHEYAGO宅建士ライター
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フリーのWebライターかずです。国家資格の行政書士、宅地建物取引士を保有しているため、資格に関する記事や不動産、マンションを中心に関する記事を執筆しています。特に「不動産と法律」については、わかりやすく丁寧に説明することを心がけています。
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