敷金と原状回復の関係とは?トラブル回避のために知っておきたいこと

公開:2021/05/31
更新:2023/05/17
敷金と原状回復の関係とは?トラブル回避のために知っておきたいこと
退去時に返還される敷金の額は、原状回復費用の有無や金額によって変わります。物件を借りる側としては、少しでも多くの敷金が返還されることを望むでしょう。一方で、「どのような場合に原状回復費用が請求されるのかよく分からない」という人も多いのではないでしょうか。 本記事では、敷金と原状回復の関係性や起こり得るトラブルについて解説します。退去時のトラブルを回避するためにも、本記事を参考にしてみてください。

敷金とは何か

敷金とは、賃貸物件を契約する際に必要になるお金の1つ。家賃の1ヶ月分、または2ヶ月分の金額を初期費用として、大家さんに支払います。ただしその性質は礼金とは異なり、退去時まで「大家さんに預けるお金」であることを覚えておきましょう。 なお、敷金は主に東日本で賃貸物件を借りる際に用いられるもの。西日本では保証金と呼ばれることが多いです。目的や性質は敷金と同じですが、相場や返還時のルールが異なる点に注意しましょう。

敷金とは大家さんに担保として預けるお金

敷金とは、おもに下記2つの事象に備え、これらの担保として大家さんに預けるお金です。

  • 何らかの事情で家賃が払えなかった場合に充当する
  • 退去時に借主負担で修繕が必要になった場合に充当する

上記の事象が発生した場合はその費用を差し引いた額が返還され、発生しなかった場合は退去後に全額が返還されます。ただし、特約条項やその他の条項で他に敷金を充当する支払いが定められている場合は、この限りではありません。

敷金はいつ返還されるの?

返還される敷金は通常、物件の引き渡し後に借主の指定口座に振り込まれます。なお、2020年に施行された改正民法では、借主が大家さんに物件を返還すると、借主に敷金の返還請求権が発生することが明記されています。

重要なポイントは、敷金は「必ずしも返還されるとは限らない」ということです。上述の事象によって、当初預けていた敷金が全てなくなってしまった場合は、返還されません。あくまでも、「敷金の全部または一部が残っている場合に返還される」と覚えておきましょう。

賃貸物件の原状回復義務とは何か

賃貸物件を借りる際、借主が大家さんに対して負うのが「原状回復義務」です。原状回復の負担範囲については賃貸借契約書に記載されており、その義務は退去時に果たすべきとされています。契約締結後にその内容を変えることは難しいため、借主負担とされる部分はその妥当性について、契約前によく確認しておく必要があるでしょう。

借主が果たすべき原状回復義務とは

原状回復とは、普通に生活をしている中でできてしまったキズや汚れ(通常損耗)と時間の経過とともに生じた劣化や損耗(経年変化)を除き、借主の故意や不注意によってできてしまった床のキズ、壁のシミ、水回りのカビなどを借主負担で修繕すること。つまり、物件内を入居以前の状態に戻すのではなく、あくまでも借主の何らかの過失によって修繕が必要になったものについて責任を負う、ということです。

例えば、家具を設置したことによる床のへこみ、壁にカレンダーを貼った際にできた跡や画鋲の穴、壁紙の日焼けは通常損耗や経年変化の範囲内であるため、その修繕は大家さん負担。一方で、飲み物をこぼしたことによってできたシミ、日常的に掃除をしていなかったことによってできたカビ、喫煙による壁紙の変色などは、借主負担となります。

国土交通省が1998年に「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」を発表して以降、原状回復のルールが上記のように明確になりました。しかし、大家さんと借主の認識の不一致や情報格差によって、未だにトラブルが多く起こっているのが実情です。

「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」とは

「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」とは、大家さんと借主の間で多く生じてきた原状回復のトラブルを防ぐことを目的として、国土交通省が発表したもの。これまでに行われた2回の改訂を経て、敷金の返還や原状回復にかかるルールがより明確になりました。

ガイドラインには法的拘束力も強制力もありません。しかし、特にトラブルの原因になりやすい原状回復の費用負担割合について一般的な基準を示していること、多くの判例を踏まえた上でできたものであることから、これを基準の1つとして契約書が作成されているケースが多いでしょう。

参照:国土交通省 「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」

2020年の民法改正で敷金と原状回復のルールが明文化

原状回復のルールは、2020年の民法改正で初めて明文化されました。規定内容は、それまでの慣習や判例、国交省のガイドラインを踏まえたものであるため、実務上の大きな変化はないとされています。よって引き続き、原状回復の一般的な基準を確認したい場合は、国交省のガイドラインを参考にすると良いでしょう。

なお、民法の多くがそうであるように、この法律も任意規定です。したがって、異なる内容を契約書に定めた場合には、個別の契約内容が優先されます。ただし、消費者の利益を一方的に害するようなもの、消費者契約法や借地借家法に抵触するものを除きます。

原状回復費用とは

原状回復費用とは、原状回復をするために発生する具体的な費用のこと。通常は、あらかじめ契約書で定められた内容に基づきながら、退去時の立会いを経て決まるものです。また、特約条項に「ハウスクリーニング代やエアコンクリーニング代などの負担についても借主負担で行う」との記載がある場合には、これらも原状回復費用に含まれます。

賃貸物件の敷金と原状回復費用の関係

敷金の有無や金額が原状回復やその費用に与える影響がない一方で、原状回復費用の有無や金額は敷金の返還額に直接影響を与えます。つまり、原状回復費用は敷金の返還額を決める重要な要素です。

敷金の返還額と原状回復費用はいつ決まるのか

敷金の返還額と原状回復費用が決まるのは、退去時の立会い後。立会い時に借主負担で修繕すべき箇所が見つかった場合には、該当箇所を修繕する費用の見積もりがされます。大家さんと借主双方がこれに合意することで原状回復費用が決まり、それにともなって敷金の返還額も決まります。

敷金ゼロの物件は要注意

契約時に敷金がかからない物件は、初期費用を抑えるという点においては一定のメリットがあると言えるでしょう。一方で、退去時に借主負担の原状回復費用が発生した場合は、その全額を支払わなければならない点に注意が必要です。

賃貸物件から退去するときは、引越し費用や新居でかかる初期費用など、出費が多いタイミングと重なります。「原状回復費用が支払えない」とならないために、一定の予算を確保しておくと安心でしょう。

敷金と原状回復費用をめぐるトラブル事例

国民生活センターによると、全国から寄せられた敷金と原状回復をめぐるトラブルの相談は、毎年1万件を超えているようです。トラブルの主な原因としては、契約書の記載が曖昧であったり不明瞭であったりすること、借主が契約書の内容を理解できていないまま契約していること、悪質な大家さんによって本来の借主負担分以上の費用請求をしていることなどが考えられます。

以下では、よくあるトラブル事例をご紹介します。契約時の注意点としても参考にしてみてください。

参照:独立行政法人 国民生活センター「賃貸住宅の敷金・原状回復トラブル」

きれいに使っていたのにハウスクリーニング代が請求された

普段からこまめに掃除をし、通常損耗と経年変化以外の損耗・損傷箇所はなかったにもかかわらず、敷金からハウスクリーニング代が差し引かれたケース。これは、通常の原状回復義務に加えて、特約条項が追加されている場合に発生するものです。

特約条項とは、契約書内で基本条項以外に交わしたい取り決めがある場合に明記するもの。よって特約条項に、「退去時は借主負担でハウスクリーニングやエアコンクリーニング、室内消毒を行う」という記載がある場合は、その費用も原状回復費用の一部として敷金から差し引かれます。

必ずしも「部屋をきれいに使ってさえいれば、敷金は全額返還される」というわけではありません。特約条項に借主負担となる費用が明記されている場合には、その費用も支払わなければならないことを覚えておきましょう。

ペットを飼っていたら高額な原状回復費用を請求された

室内で犬や猫などのペットを飼っていると、壁や床が傷ついたり、汚れたり、臭いがついてしまう、ということはよくあることです。そのため、ペットを飼っている場合にはそうでない場合に比べて、原状回復費用が高くなる傾向にあります。ところが、その額があまりにも高額である場合は注意が必要です。

ペットの飼育による原状回復の費用負担については、あらかじめ特約条項に明記されていることもあります。そこに記載されている以上の負担が求められている場合やそもそも特約に記載がない場合は、費用の算出根拠を提示してもらうようにしましょう。

なお、国交省のガイドラインでは、壁の一箇所を汚してしまった場合に借主が負担するのは、その一面分の壁紙の張替費用であって、全面分とするのは妥当でないとしています。また、臭いを理由に全ての壁紙の張替えを求められたとしても、「ハウスクリーニングや消毒で事が足りるような場合には、その必要性は認められない」という判例もあります。

敷金と原状回復に関するトラブル回避のためにできること

敷金と原状回復をめぐるトラブルの中には、借主自身が注意することで防げるものがいくつもあります。契約を締結してから、あるいは退去立会いを終えてから、「勘違いしていた」「そうとは知らなかった」となっても手遅れになりかねません。契約前に契約書を確認したり、入居前に物件内を隅々まで確認したり、退去時は必ず立会いをして損耗有無を確認したりすることで、トラブルを回避しましょう。

契約前は契約書の内容を要確認!

賃貸契約書に限ったことではないですが、契約書を締結すると契約当事者は、契約内容を守り、債務を履行する義務を負います。契約の途中で、契約内容を変更したり無くしたりすることは基本的にできません。したがって、契約書の内容は契約を結ぶ前によく確認する必要があります。

原状回復に関するところはトラブルに発展しやすいため、特に注意しましょう。疑問があれば不動産屋さんに尋ねたり、少しでも不安があれば自分の認識が間違っていないか確認したりすることをオススメします。

ハウスクリーニング代やエアコンクリーニング代など、特約条項に記載されているものは、その免除や緩和を交渉できるかもしれません。免除が難しい場合も、あらかじめ負担割合や費用の目安を記載してもらうと退去時のトラブルを軽減できるでしょう。

入居前は物件内に傷や汚れがないか要確認!

入居前や荷物を運び入れる前には必ず、物件内に傷や汚れ、壊れているところがないか確認しましょう。退去時のように、大家さんや不動産屋さんの立会いのもとで行うのが望ましいです。その際、チェックリストに損耗の有無や状態について記入し、大家さんと借主の双方が署名捺印することで、退去時のトラブルを軽減できます。

仮に大家さんの立会いが実現しなかったとしも、損耗箇所が見つかった場合には、写真を撮って大家さんや管理会社に連絡しましょう。連絡手段は電話だけでなく、メールでもやり取りをすることをオススメします。入居中に大家さんが変わった場合や、大家さんが入居時のことを忘れてしまった場合も、報告した履歴を残しておけば安心です。

退去立会い時は不当な費用請求がされないか要確認!

退去時の立会いは、原状回復箇所の有無を確認する大切な時間です。大家さんや不動産屋さんと一緒に1つずつ確認した結果をもとに、借主負担分の原状回復費用が決まります。例えば、壁にできたキズやシミが亀裂や漏水などの不可抗力によるものである場合も、それを主張しなければ借主の費用負担になってしまうかもしれません。

賃貸物件の中にはまれに、退去時の立会いを不要とするケースがあります。原状回復費用が一切発生しない前提であれば問題ありませんが、大家さんや不動産屋さんだけで物件内を確認し、後日原状回復費用の請求が届くというケースもあるため、注意が必要です。引越し当日の忙しい中ではあるものの、余程の理由がない限り、立会いは必ずするようにしましょう。

まとめ

退去時に返還される敷金とは、あらかじめ大家さんに預けている敷金から原状回復費用を差し引いたもの。つまり、原状回復費用は敷金の返還額を左右する重要な要素です。

借主が負担する原状回復とは、通常損耗や経年変化を除く、借主の何らかの過失によってできてしまったキズや汚れ、カビなどの損耗箇所を修繕すること。契約書の原状回復に関する条項及び特約条項に定められている借主の負担範囲をもとに、退去時の立会いを経て決まるのが、原状回復費用です。

敷金と原状回復については毎年多くの事例が報告されるなど、トラブルが絶えません。しかしこれらの中には、契約前に契約書をよく確認したり、不当な請求がされないように退去時の立会い時によく確認したりすることで防げるものもあることを覚えておきましょう。

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この記事を書いた人
中條 ふみ
OHEYAGO宅建士ライター
中條 ふみ
銀行とメーカー勤務を経て、夫婦で不動産賃貸経営をする子育てライター。これまでに中古アパート、一棟ビル、戸建の売買や賃貸を経験。保有資格は、宅地建物取引士と2級FP技能士。 自身の経験を活かしながら、女性目線を盛り込んだ不動産関連記事や取材記事を多数執筆。
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