退去費用で払わなくていいものは?ガイドラインに沿った支払いの有無についてご紹介
退去費用とは
引っ越しをするときは引っ越し費用や新しい物件に支払う敷金礼金など、いろいろな費用が必要になります。住んでいた物件に対して発生する「退去費用」もその一つです。退去費用とは、原状回復のために必要になる設備の修繕費用や、ハウスクリーニングの費用など、次の住人が住める状態にするために必要なお金のことを指します。とはいえ、入居したときの状態に完璧に戻す必要はなく、一部は貸主側が負担することが、国土交通省が定めた「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」で定められています。ただルールが定められていても、入居者と貸主の間でトラブルが起こることはよくあります。双方が納得して円満に契約終了となるためには、入居者側もしっかりとした知識を身につける必要があるのです。
退去費用がいくらになるかは、部屋の広さや状態によって異なります。契約書の特約に退去費用について描かれていることが多く、「1平方メートルにつき1,000~1,200円」が相場となっているようです。70平米の部屋なら70,000円くらいになる計算になります。これは故意過失がなかったときの目安なので、うっかり床に傷をつけた、子どもが壁に落書きをしたなどの事情があればその分は別で請求されます。 また、20平米ほどの部屋の場合は一律で平米数ではなく一律で物件を決めることもあるたりおおよその金額は35,000円になります。
退去費用で払わなくていいもの
賃貸物件から退去するときは、入居者が原因となって発生した損耗や損害は入居者の責任で修繕・補償を行う必要があります。つまり故意・過失に関わらず、住んでいる間に付けてしまった傷や汚れは、原則として入居者が費用を負担しなければならないということです。これを「原状回復義務」と言います。ただし、これは「入居したときの状態」に完璧な状態で戻す、という意味ではありません。払わなくてもいい費用もあるのです。
ガイドラインに記載があるもの
国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」では、原状回復を「入居人が住んでいる間に発生した傷や汚れのうち、故意・過失・不注意・その他通常の使用を越えるような使い方によるものについては復旧しなければならない」と定義しています。つまり「借りた当時の状態に戻すこと」ではないとしっかり名言しているのです。ここでいう「通常の使用」とは、「誰が住んでいたとしても発生すると考えられるもの」のことです。どんなに気を付けて暮らしていたとしても、人が住んでいれば部屋は少なからず傷んでいきます。これを「通常損耗」といい、入居者が支払いをする必要はありません。
通常損耗と合わせて入居者側に負担の必要がないものに「経年劣化」があります。これは時間の経過によって品質が下がってしまうことで、直射日光で壁紙が変色したり、湿気で窓枠のゴムが傷んでしまうことを指します。言い換えると、入居者が支払う退去費用は、「原状回復費用」から「経年劣化・通常損耗による傷みの回復費用」を引いたものとなります。
具体的な例
退去時に支払わなくていい費用について確認してみましょう。
・家具家電を設置したことによる床のへこみ
・電化製品の電気焼けによる壁の黒ずみ
・ポスターやカレンダーによって壁にできた跡
・画鋲やピンの穴(小さいもの)
・浴槽の補修費(経年劣化によるもの)
・台風や震災による損傷
・エアコンの内部洗浄(手の届かない範囲)
この他にも、畳の表替えや裏返し、フローリングのワックスがけ、網戸張り替えなどにかかる費用についても支払う必要はありません。
法的強制力がない点に注意
国交省のガイドラインは退去費用を考える上で心強い味方ですが、法的な強制力がある訳ではない点には注意が必要です。ガイドラインはあくまで「このガイドラインを参考に契約書を作りましょう」という目的で作られたものなので、入居時に交わす契約書を上回るものではありません。つまり契約書に書かれていなかった、契約するときにきちんと説明されなかった、というときには役に立つものの、契約書でしっかり入居者の負担と明記されている項目については、ガイドラインで貸主負担となっていても、入居者が負担しなければならないのです。
退去費用で支払う必要があるもの
ガイドラインに書かれた負担範囲
国土交通省のガイドラインでは、入居者負担となる修繕箇所についても記載があります。
・食べ物や飲み物をこぼしてできたシミ
・ものを落とした、家具を引き摺ったなどしてできたフローリングの傷
・ペットが付けた汚れ
・子どもの落書き
・タバコの臭いや壁の黄ばみ
・鍵をなくしたときの交換費用
などは入居者負担になります。ただしこれらも原状回復のためにかかる費用全てを負担するのではなく、貸主の負担となる費用を差し引いた分を負担する形になります。経年劣化や通常損耗による損害分を引いた分を、入居者側が負担する形になります。また、入居者の負担は耐用年数と経過年数が考慮されます。例えば、壁紙の耐用年数は6年と決められています。壁を張り替えたばかりの部屋に入居し3年住んでいた場合、退去時の入居者修繕負担は、経過年数を考慮して5割となります。
特約が決められていることもある
賃貸契約を結ぶ際、その契約にのみ適用される「特約」が盛り込まれている場合があります。ガイドラインでは貸主側が負担するとなっている費用でも、特約で入居者負担となっているなら負担しなければなりません。特に多いのが「クリーニング特約」です。ガイドラインでは、専門業者に依頼するような本格的な掃除の費用は貸主が負担するとなっています。しかし特約で、退去時のハウスクリーニング費用は入居者が負担すると決められていると、入居者が負担しなければなりません。
退去費用が高くなりがちなケース
通常損耗や経年劣化が考慮されるのだから、普通に暮らしていれば退去費用はそこまでの金額にならない、と思いがちですが、全てに当て嵌まる訳ではありません。普段の生活が退去時の負担になってしまう、ということもあるのです。よくあるのがタバコです。タバコによるクロスの黄ばみや臭いは故意と判断されるため経年劣化が考慮に入りません。クロスの張り替えや部屋の消臭、タバコを落としてこがした部分の取り替えや、エアコンや換気扇から臭いが取れないときの清掃・取り替えは入居者負担で行う必要があります。
ペットが原因の傷や汚れも入居者が負担する必要があります。そもそもペット可の物件でペットを飼う場合は、契約書に特約事項が記載されている場合がほとんどで、ペットによる汚損破壊の原状回復は入居差負担とされています。特約事項があればそれに従い、ない場合はガイドラインに従うことになるためどちらにせよ入居者の負担になるのです。ペットの臭いが強く残っている場合は専門業者が入ることになりそれも入居者負担になるので、普段から臭い対策は行っておく必要があるでしょう。
掃除をさぼりがちな人も要注意です。通常の生活を送っていれば汚れはどうしても付いてしまいますが、それを放置し続けていると通常の掃除では取り切れないようになってしまい、結果入居者負担で専門業者のクリーニングを入れなければならなくなるからです。結露を放置してカビが生えた、水回りのカビを放置してコーキングの打ち替えが必要になった、換気扇の油汚れがこびりついて取れなくなった、などいろいろなケースがあるので、汚れが発生しやすい箇所の掃除は普段から念入りに行う必要があります。
退去費用で納得がいかない場合の対処方法
請求された退去費用にどうしても納得がいかない、というときはまずガイドラインと契約書を確認しましょう。契約書の特約に入居者負担と記載されている場合は、入居者側が費用を支払う必要があります。それ以外の費用についてはガイドブックを確認しましょう。契約書に書かれていない項目についてはガイドラインに従うのが通例です。また、特約に記載されている内容が全て有効になる訳ではないことも覚えておきましょう。契約書やガイドラインを見てやはり納得がいかない、となったら物件の管理会社に相談しましょう。退去費用は入居時に支払った敷金から支払われるため、退去費用が決まらないとお金が返ってきません。管理会社に相談するときは「納得できない」「おかしいと思う」など不満をぶつけるだけではなく、ガイドラインと異なる点を冷静に指摘することが重要です。
請求された退去費用が敷金の金額を超えている場合、追加で支払いを求められることになります。退去費用に納得がいかない場合は、追加費用を請求されてもすぐに従わず交渉を行いましょう。「絶対に払わない」と意固地になるのではなく、必要なら支払うが金額に納得ができないことを伝え、詳細な費用内訳を見せてもらうようにします。修繕費用の見積りは入居者側でも取ることができるので、リフォーム業者などに事情を伝えて見積りを取ってもらうのもおすすめです。第三者側の視点があれば、交渉もスムーズに進でしょう。
管理会社との交渉が上手くいかない場合は、公的な相談窓口を利用しましょう。消費者ホットラインや国民生活センター、都道府県の不動産窓口などが選択肢に入ってくるでしょう。相談料金は無料なので、退去費用に納得がいかず相談したいことを伝え、どう行動すればいいのか教えてもらいましょう。これでも話し合いに決着が付かなければ、最終的に裁判で解決することになります。とはいえ裁判はお金がかかるので、よく考えて行動する必要があります。まず法テラスなどの無料相談窓口を活用してみましょう。裁判はお金も時間もかかるためできるだけ避けるべきですが、最後の手段として知識は頭に入れておくといいでしょう。
退去費用を抑えるためには
退去費用を安く抑えるためには、「退去時に部屋の掃除をする」「保健を利用する」「入居時に写真を撮っておく」ことが有効です。まずは退去時の掃除についてですが、汚れたまま見せてしまうと、普段から掃除をさぼっているとみなされてクリーニング費用を請求される可能性があります。しっかりと掃除をしておきましょう。特に水回りの赤カビや黒カビは落としておくようにします。カビは普段からのこまめな掃除が重要なのですが、それでもやるに超したことはありません。水垢や赤カビなどはメラニンスポンジなどを使えば簡単に落とせることが多いので、トライしてみましょう。逆に便器の黒カビなど一度発生させると簡単に取れないものもあります。無理に落とそうとして設備を破損させては元も子もないので、やり過ぎないよう注意しましょう。
加入している保険を利用することもできます。賃貸住宅に入居する際火災保険に加入しますが、そこに「借家人賠償責任補償」「個人賠償責任補償」などの特約が附属していることが多いです。借家人賠償責任補償は大家さんに損害を与えてしまったときに費用を補償してくれるもの、個人賠償責任補償は日常生活で他人に怪我を負わせたり、他人の物を壊してしまったときの費用を補償してくれるものです。意図せず壊してしまった、損害を与えてしまったというときに利用でき、子どもの落書きや物を落として洗面台が壊れた、というときにも対応してもらえます。ただし退去時に保険を使って直すことはできないので、傷を付けてしまったタイミングでその都度利用する必要があります。
入居したときに部屋の写真を撮っておくというのも大切です。入居時の状態を証明できるようにしておくことで「この傷はあなたが入居中に付けたものだから、修繕費用を払いなさい」と言われたときに、元々あった傷だと反論することができます。最近は管理会社が入居前写真を撮影していることが多いですが、入居者が実際に暮らしていく中で初めて見つける傷というのも少なくありません。写真という証拠がなければ水掛け論になってしまうため、入居者の側でも写真を撮っておくのが有効なのです。
写真を撮るときは、傷の状態とどこにある傷なのかをはっきりさせる必要があります。傷だけを寄りで撮っても、それが部屋のどこにある傷なのか分からなければ証拠になりません。かといって引きで撮ると傷の状態が分からなくなってしまうので、引きと寄り、両方の写真を撮るといいでしょう。日付を書いた付箋やマスキングテープなどを活用して引きと寄りの写真を撮っておくことで、傷のサイズ感なども分かるようになります。入居後すぐに写真を撮り間を置かず管理会社に提出しておけば、データ改竄を疑われることもないので確実です。
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